装飾音とは、音に短い飾りの音を付けることです。大別して、装飾音符と呼ばれる小音符で示されるものと、装飾記号と呼ばれる記号で示されるものに分けられます。
装飾音は、装飾の速さ、回数などは(場合によっては装飾音を付ける、付けないまでも)、奏者に任されます。
装飾音符
- 装飾音符とは、小音符によって装飾音を示すものです。
- 長前打音は、小さな4分音符や8分音符で示され、通常その音符は「ぼう」を上向きに書きます。原則として小音符の見かけ上の音価にかかわらず、その音を、長前打音を付した音符(ここでは「親音符」と呼ぶことにします)の1/2から2/3のきりのいい音価で演奏します。親音符の長さはその分短くなります。解釈によって、割合に関わらず、長前打音の見かけ上の音価を長前打音の音で演奏することがあります。
- 短前打音は、小さな8分音符に斜線を付して示され、通常その音符は「ぼう」を上向きに書きます。小音符は短く演奏します。どのくらい短くするかは、演奏者の解釈に任されます。短前打音は、短前打音が拍の頭に合うように親音符からその分の時間を割くこともあれば、親音符画伯の頭に合うように親音符の前の音符から割くこともあります。下の譜例では両方の演奏例を示していますが、このように16分音符で短前打音を弾くこともあれば、もっと長く、またもっと短く演奏する場合もあります。
- 複前打音は、短前打音の装飾音が複数になったものです。小さい16分音符で書かれ、斜線は付けません。もっとも、最近の楽譜では付けているものもあります。短前打音同様、どのくらいの短さで演奏するかは演奏者に任されます。複前打音の最初の音を拍の頭に合わせることもあれば、親音符を拍の頭に合わせることもあります。
- 後打音は、親音符の後に短く演奏されます。
トリル
- トリルは、親音符と2度上の音の間を震えるように細かく行き来する装飾音です。
- トリルは「tr.」で示されますが、「tr」のあとに波線を付け加えていることがあります。(譜例ア)
- 2度上の音に臨時記号を付けるには、「tr」の右肩にその臨時記号を添えます(譜例ウ)。
- トリルの速さ(細かさと行き来の回数)は奏者の自由です。だんだん細かくしていくような演奏もあります。
- 親音符から始める場合と、2度上の音から始める場合があります。おおむね、モーツァルトまでの曲では上から、それ以降では親音符からと考えるのが普通です。2度上の音から始めることが、短前打音を使って明示されていることがあります(譜例イ)。
- トリルの終わりは、親音符の音で終わります。
- トリルの最後でいったん親音符の2度下の音に行くことがあります。そのことが、後打音を使って明示されていることがあります(譜例ウ)。
- 大太鼓その他、音高のはっきりしない打楽器に「tr」がついている場合には、速いトレモロを意味します。
プラルトリラーとモルデント
- プラルトリラーは、逆モルデント、トリラー(普通のトリルのことをトリラーともいいますので、紛らわしい呼び方になります)ともいい、短いトリルです。トリルは音価の最後まで音をふるわせますが、プラルトリラーは1、2往復でやめて、親音符の音で延ばします。
- 往復の数は、奏者の自由ですが、場合によっては、プラルトリラーの記号の長さで、往復の数を示していることがあります。
- トリル同様、親音符の音から始める場合と2度上の音から始める場合があります。
- 2度上の音に臨時記号を付けるには、プラルトリラーの記号の上にその臨時記号を添えます。
- モルデントは、プラルトリラーとは逆に、2度下の音との間で往復します。親音符の音ではじめて1往復だけし、あとは親音符の音を延ばします。
- 2度下の音に臨時記号を付けるには、モルデントの記号の下にその臨時記号を添えます。
- バロック時代には、次のような、プラルトリラーとモルデントの組み合わせや、それらの派生形が、使われました。
弧線とプラルトリラーの組み合わさった記号には、をのように、をのようにしているものがあります。
ターン
- ターンは、2度上の音と下の音をぐるりと回る装飾音です。
- 通常のターンは、2度上から始まり、親音符の音に戻り、2度下に行ってから親音符の音に戻ります。
- ターンが次の音との間に書かれたときは、親音符の音を演奏してからターンをします。
- 上や下の音に臨時記号が付くときは、ターンの上下にその必要な臨時記号を添えます。
- 転回ターンは、ターンと上下が逆になる装飾音です。ターンの記号に縦線を入れるか、記号を縦にします。
アルペッジョ
- 和音を、順番にばらばらに演奏することを、「アルペッジョ」(アルペジオ)といい、縦の波線で表されます。「アルペッジョ」は「ハープ(アルプ)のように」という意味です。
- 縦の波線だけのときには、下から順に弾きます。
- 波線に矢印がついている場合には、矢印の方向に弾きます。
- 複前打音等と同様、最初の音を拍に合わせる場合と、最後の音を拍に合わせる場合があります。
- アルペッジョの速さは、奏者の任意です。
- ピアノでは、上下の段にまたがる波線が書かれることがあり、この場合には上下段にまたがるアルペッジョとなります。そうでなくて分かれていれば、それぞれにアルペッジョを(同時に)演奏することになります。ただ、実際にどちらの奏法を取るかは奏者の任意ということも多いようです。
グリッサンドとポルタメント
- ある音から次の音へと、2つの音をつなげて、滑らせて演奏することを「グリッサンド」といいます。
- 下の譜例のように斜めの波線で書かれることもあれば、ただの斜線で書かれることもあります。「glissando」「gliss.」と文字を添えることも、添えないこともあります。
- ピアノやオルガンでは、白鍵(または黒鍵)の上を、指を滑らせます。出てくる音は、速い音階になります。木琴、鉄琴も、ばちを滑らせますから、同じような音になります。
- ヴァイオリンやトロンボーン、声楽では、半音の間の音がすべて(サイレンのように)鳴ることになります。
- グリッサンドと似たものに、「ポルタメント」があります。両者の違いは厳密ではなく、また人によっても違いますが、おおむね「ポルタメント」は、前の音から次の音へ移る直前まで待って、短くグリッサンドすることをいいます。「port.」と書かれることがあります。